子供の頃から夢中に観てきた習慣で、オリンピックと並び、高校野球となるとぷちナショナリズム(地元推し)が生起してしまう。
まあそれも良いのではないだろうか。
昨年11月の『文横だより』で、『文学横浜の会』と同じ当地のチームである野球の横浜高校が秋季高校野球関東大会で優勝し、今春の甲子園出場を確実とした話題を記していた。
その後日談を記したい。
なんとその横浜高校が直後の11月に明治神宮大会で全国優勝し、今年3月の選抜高校野球大会でも全国優勝を遂げたのであった。
この時俄かに思い起こしたのは1998年の松坂大輔を擁した横浜高校の春夏甲子園連覇である。
長い高校野球の歴史で春夏甲子園連覇を果たした高校は延べ8校あるのだが、秋に新チームを結成してから一年間を公式戦一度も負けずに通した高校はたったの一校しかない。
それが1998年の横浜高校である。
いかに神掛かった偉業であるかを記したい。
公式戦は秋季県大会に始まり、秋季関東大会がある。ここで優勝すると明治神宮大会という全国大会がある。次に翌春の選抜甲子園大会がある。終わると息つく間もなく春季県大会、春季関東大会と続く。そして夏の県大会。優勝して切符を手に入れると、最も注目される夢の舞台、夏の甲子園大会が待っている。しかしそこでまだ終わらない。秋に甲子園の上位校による国体の高校野球大会が締め括りとして残っているのだ。
すなわち公式戦というのは県大会3種、地方(関東)大会2種、全国大会4種の併せて9種の大会を意味する。
その全てで優勝を遂げた高校が唯一(1997年秋~)1998年の横浜高校なのである。
冒頭の今年の横浜高校は春の甲子園優勝後、春季県大会でも優勝し、公式戦9大会のうち5大会まで無敗を維持し、非常に期待が高まった。
しかし残念ながら春季関東大会の準決勝で敗れてしまった。主力の故障が響いたようである。
同一校による史上2度目の公式戦全て負けなしの達成は潰えた横浜だが、延べ9校目である2度目の甲子園春夏連覇の夢はまだ残されている。
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文横だより2025年 5月号をお送り致します。
◆5月の読書会の報告
日 時: 5月 10日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『終電は1時7分』 井上荒野 『夜を着る』(文春文庫)所収
担当者: 武内(原)さん
出席者:(敬称略・)
河野、篠田、佐藤、山下、武内、藤原、寺村、野田、山口、遠藤悟、
「掲示板」参加者(敬称略)5/10現在
藤原、寺村、野田、成合、遠藤、中根
以下、読書会テーマ『終電は1時7分』担当者・武内(原)さんより
主人公は大学教授という設定である。しかも50代という年齢だ。すべてがそうである訳ではないが、大学教授とか医者とかには世間知らずのお坊ちゃんが多い。ずっと成績優秀で親からも可愛がられ、世間からも敬われて当たり前の存在というところで生きてきた。50代というのは老いに入る直前の年齢で、他者からは歳相応なオヤジに見えても、鏡の中に映る自分はまだまだ30代のイケてる容姿を残している。研究室に集う女子学生からは当然ちやほやされ、彼女らの本音も見抜けず、自分も時には同年代のような気分になって彼女達を指導する。家に帰ってもつまらない老いた妻が無口でいすわるだけで、子どもも自立して離れている状態であれば家はちっとも面白くないし、そこで生きている実感は得にくい。そんな家族を捨てて、若い教え子と第二の人生を出発させてもいいと思っていた。
しかし相手の女子学生は、そんな次第に本気になっていく老いを迎えた教授と人生を共にする気はさらさらなく、恐らく友人達に逐一報告しながら、バカ笑いをしていただろう。それが分かった時には、すでに遅かった。妻とは多分離婚話が進み、家は妻の物になって出て行かされた。荷物を持ち出す期限まで申し渡されてしまって、万事休す。行くところもなくさまよって出会った女の家に泊まる、つもりだった。
私がこの作品を取り上げたのは、何も男の浮気を糾弾する意図ではなく、(それ自体はどうでもよく)井上荒野の持つ鋭角な言葉の選択にある。この作品の中心的なポイントは、もちろんタイトルになっている「終電は一時七分」という台詞だ。女はひとときの逢瀬を楽しんだだけで、男には何の興味も関心もなくどうやら行く当てもないという心根も見え見えである。そんな時に「そろそろ帰れば」とか「タクシーでも呼ぼうか」では弱すぎるのである。最も容赦のない攻撃的な台詞が「終電は一時七分」であり、言われた方は立ち直れないほどの屈辱的なダメージを受ける。
井上荒野は何気ない日常を、何気なく描く作家である。そこに大きなドラマや展開は起こらない。けれども何気なく見えるたった“一言”に日本海溝級の深度あるダメージを与える言葉を知っていて、それを選択できる能力において他を抜きん出ている作家でもある。
くどいようだが、この作品は浮気男を断罪しようとするものでは決してない。なぜなら、多くの読者がこの男は自業自得だと思いながらも、余りにも哀れで可哀想という読後感を持つからだ。作品の中で、この男は否定されてはいない。むしろ人生のどうにもならない哀しみとしての肯定感すらうかがえる。それがこの作家の最大の魅力でもある。
※ホームページの掲示板には読書会のレジュメと結果報告の両方がアップされています。
◆6月の読書会スケジュール
日 時: 6月 7日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『小さな王国』 谷崎潤一郎 青空文庫所収
担当者: 河野さん
(担当者より)「全集くらいにしか収録が無く、10数年来の懸案でした。
この度、やっと、青空文庫に取り上げられました。 河野」
※「青空文庫」は無料で読めるウェブのこと。紙の本が手に入らない場合、「青空文庫」で読んでくれば本(紙)の持参はしなくてもよい。スマホやタブレット等のご持参はご自由に。(篠田)
◆7月の読書会スケジュール
日 時: 7月 5日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『樹影譚』 丸谷才一 文春文庫の作品集「樹影譚」収録(川端康成賞受賞作品)
担当者: 藤原さん
(担当者より)「アマゾンやブックオフなどで、まあまあ安価に購入可能です。
図書館を利用できる方は、さまざまな書籍に収録されています」
◆8月は休会
◆9月以降の読書会担当者(敬称略)
寺村、野田、岡井、山口、福島、中根、篠田、佐藤、小鍛冶、成合、遠藤悟、藤本、鶴見、
赤川、山下
の順となります。
担当者はテーマが決まりましたら篠田までご連絡をお願い致します。
注)ご辞退、順番の変更等がありましたら、調整しますのでご連絡をお願い致します。
また漏れや今まで辞退していたが担当ご希望の方がありましたら、ご連絡をお願い致します。
注)担当者は原則リアルにもご出席をお願い致します。
◆読書会テーマについて
原則としてできるだけ短編が望ましいです。
同じく本は安価で購入できることが望ましいです。
ただし上記について例外を認めない訳ではありません。
お問い合わせ、ご相談はお気軽に直接TELまたはメッセージでも大丈夫です。
連絡先 篠田まで
AD <taizo_shinoda@chic.ocn.ne.jp>
TEL 090-3146-3077
以上、篠田