6月読書会報告

◆6月読書会
 日 時: 6月 1日(土)17時~19時
 場 所:神奈川県民センター内、会議室
 テーマ:「墓堀り男をさらった鬼の話」「信号手」
     (「ディケンズ短編集」岩波文庫より)
 担当者:林さん

【選んだ理由】
 始めに、これまで読書会ではファンタジー(超自然的、幻想的、空想的な事象)や児童文学についてはあまり取り上げられていなさそうだと思い、ファンタジーを扱った作品を選んでみようと考えました。
 また、ファンタジーと言えば「アーサー王物語」「指輪物語」「ピーター・パン」「メアリー・ポピンズ」「床下の小人たち」「チョコレート工場の秘密」「ハリー・ポッター」など数々の著名な児童文学作品は、イギリス発のものがとても多いことについて、なぜだろうかと以前からずっと気になっていました。
 イギリス文学の中でファンタジーを扱った作品では、遡れば16世紀にはシェイクスピアの「真夏の夜の夢」、18世紀にはジョナサン・スウィフトの「ガリバー旅行記」、19世紀のチャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」などがありますが、ファンタジーを扱った作品でなおかつ読書会で読みやすい短編ものを捜しているうちに「ディケンズ短編集」という本が存在することを知りました。
 ディケンズは「オリバー・ツイスト」「二都物語」「大いなる遺産」などの長編の作品のイメージが私の中にあったので、短編集の存在を珍しく思ったことと、その短編集の内容がファンタジーやミステリーの要素が詰まったものであることが面白いなと感じたので、今回課題本として選びました。
 ディケンズの作品を読書会で扱うのは今回が初めて(?)であれば、本来なら上記に挙げたような名作を取り上げようかな…とも悩みましたが、ボリュームが大きく負担になってしまう可能性を考慮し、今回は差し控えることとしました。
 短編では物足りなく思われる方もいらっしゃるとは思いますが、おつきあいいただけますと幸いです。
【論題】
以下の3つから選んで感想をお願いします。
①自由に感想をお願いします。
課題として挙げた以外の他の短編についての感想でも構いません。
また、「ディケンズ短編集」以外の他のディケンズの作品の感想とを合わせてお答えいただいても構わないです。
②「墓堀り男をさらった鬼の話」は、解説にもありますように7年後に刊行された「クリスマス・キャロル」の原型ともいえる短編です。「墓堀り男をさらった鬼の話」と「クリスマス・キャロル」との比較や、7年間の間にディケンズがどのように思索して「クリスマス・キャロル」を執筆するにいたったのかなど考察がありましたらお願いします。
③「信号手」には幽霊が登場しますが、日本の幽霊とは様子が異なるように感じました。
恐怖だけではなく、事故を警告してくれていたと捉えることもできますが、薄気味悪い印象はぬぐえません。
日本の怪談との比較で何か感じるところがありましたら、感想をお願いします。

【読書会を終えて】

<会員の皆さんの感想>
・ディケンズの作品は初めて。
・ディケンズ自身の大きな苦労が、作品に影響していることがうかがえる。
・ディケンズ自身と自分の過去を掘り下げ、苦労した人生を作品に反映させた。
・ディケンズは人間の様々な場面をとりあげ、関心の幅の広いことがうかがわれる。人間心理に肉薄した作品を書いている。
・短編集なので、ディケンズの全体像を理解するのは難しい。
・面白くなかった。
・暗い話が多い。
・イギリスはファンタジーと並び冒険小説の大国でもある。
・イギリスでファンタジーが盛んなのは、子どもを大切にする心が昔からあったからではないか。
・ミステリーが生まれてくる背景に、地域性や気候も関係しているのではないか。

<「墓掘り男をさらった鬼の話」>
・墓掘り男が妖精のような鬼に諭され、人間の温かみや貧しい中にも幸せが存在することなど自己発見する。
・事故変容の話。ひねくれ者を善き者にする道徳的な話としている。
・説教性が強い。教訓話的なところが鼻につく。キリスト教色が強い。
・習作について、「墓掘り男をさらった鬼の話」は粗削りでディケンズ自身が満足していなかったのではないか。

<「信号手」>
・最初のほうがまどろっこしい印象。
・構成が面白いが、難しかった。
・ストーリーの展開の仕方が上手で、スリルがあり面白い。
・文頭の「おうい!そこの下の人!」の意味していることが、読み進めていくうちに分かってきて、話の筋の持っていき方が上手い。
・全部の謎が解けたわけでなく、謎を残したまま終わっている。
・トンネルから出てくる機関車は文明であり、産業革命の最中の文明に対する恐れのようなものを表しているのではないか。

<日本の幽霊との比較>
・日本の幽霊は怨念・情念が強い、生きていた人が幽霊となって現れる。
・イギリスの幽霊は社会性が強い。
・鬼や幽霊がどこから出てきたのか分からず、イギリスの幽霊は実態が見えないところが、より不気味さを増している。

 たくさんの方のご出席、本当にありがとうございました。
 ディケンズと言えば、やはり「オリバー・ツイスト」「二都物語」「大いなる遺産」などの長編(大長編)が醍醐味であると思います。
 みなさんの感想にもありましたように、短編集ではイギリスの国民的作家と言われるディケンズの魅力は十分には伝わりにくかったかもしれないです。
 でも、読書会をとおしてみなさんの感想を聞き、ディケンズの他の作品やファンタジー作品など、今まで興味がなかった作品を知り、読書の新しい世界が拡がっていく機会になれば嬉しいです。
 また、感想の中でたくさんの他の作品を教えてくださって、ありがとうございました。
私もみなさんのおかげで新しい読書の扉がまたいくつも開きました。

以上

2024/6/3